大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢地方裁判所 昭和26年(行)10号 判決 1955年6月24日

原告 木越竹次郎

被告 金沢税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は(一)被告が昭和二十六年五月三十一日附を以てなした原告の昭和二十四年度所得金額を金拾弐万弐千七百円とする決定は之を取消す、(二)原告の同年度の所得金額は金参万六千百八十八円と確定する、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、請求の原因として被告は原告に対し昭和二十五年二月二十八日附を以て原告の昭和二十四年度の決定所得金額を金拾八万円、之に対する所得税額を金五万五千弐百五拾円と決定し、之に対し原告は昭和二十五年三月三十日附を以て金沢国税局長宛に右決定に対する審査請求をなしたところ、昭和二十六年五月三十一日附を以て原告の所得金額を金拾弐万弐千七百円と決定し同年六月三十日(日曜日)原告に送達せられた。

併し乍ら原告の昭和二十四年度における

総収入は 七八四、一八三円九五銭であり

総支出は 七四七、九九五円二八銭であり

其の差額たる三六、一八八円六七銭

が原告の所得額である。その収支の明細は別紙第一の通りである。よつて原告の同年度における所得額を金拾弐万弐千七百円とする被告の決定は不当であるから之を取消しその所得額を金参万六千百八拾八円と確定する判決を求めるため本訴に及ぶと述べ、

被告の主張する利益率につき次の通り反駁した。

(一)  食用油脂について

昭和二十四年五月配給の純利益を計算すると石川油脂販売株式会社の卸売価格一合につき一九円三三銭、小売価格二〇円四〇銭にて利益は約五%となり一人当り五勺販売すると元量を仮りに一斗として受けても実際は九升八合位しか計れないので約三、四%の利益となる。人造バターも石川油脂販売株式会社の卸売価格は木箱代込一キロ一二四円(木箱売却代は収入に計上)小売公定価格一キロ一三一円であり利益率は約五%となるが実際は一人当り一五〇グラムづつ売ると、仕入当初より減量しているので九五%しか計ることができない。従つて利益は零となる。併しその都度多少相違もあり卸売価格一六、五キロ三、四五三円小売価格一合当り三四円八〇銭一斗完全に計り得るとしても一合に付二十七銭の利益でその利益率は〇・八%に満たぬ時もあつた。その間自然漏洩とか夏季の融解消耗等の現象もあり且つ後半期には販売競争となり換金のため食用油及びバター共に現実には三%以上原価を割つて販売した。従つて被告主張の如く食用油脂の販売利益率は到底十二%に及ばないのである。

(二)  石鹸等について。

上半期は町内会毎に纒めて配給した時代であり金沢衣料品小売商業協同組合の事業を代行したので原告の直接販売ではない。その利益は手数料として計上し雑収入に計上されている。尚組合より原告迄の運賃等相当の支払金があつたけれども経費として計上していない。又登録を需要者から貰うべく一般業者間の次期の配給店登録切符獲得の競争時代に入つたので公定価格より相当安く売らぬことには顧客が他に移散する状況でありその利益率も前記油脂と同断である。

(三)  衣料品について。

衣料品の利益率は油脂のように一年度一律のものではなく品目個々により夫々異る。被告は全般に一八、五%の利益を計上しておるけれども、衣料品はその都度物価庁の小売価格が告示せられ配給品の種類によつては一部には一八、五%の利益率のものもあつたけれども之は最高の利益率であつて決して平均の利益率ではない。当時は生産品の品種が極めて制限されていたので特に需要者の魅力を惹き業者も需要率の多い商品を売りたいため全国的に好まれる商品は生産者から漸次組合に入荷する迄に、卸売公定価格はあつても小売公定価格に近い値を支払はないと他県へ廻すとのことで実際に買入れるときは卸売価格が小売価格と殆んど変らないので原告らには利益のない卸売価格で配給される情況であつた。又全然需要度の少ない割高商品との組合せでないと仕入ができず、いわゆる抱合せで買入れるので利益も一定せず利益率は三%乃至四%位のものもあり又欠損を生ずるものも相当あつた。又組合より配給される衣料品は一般品と共同販売品の二種あり共同販売品はもと組合が直接販売していたのを今期の初めより原告ら一般業者が代行したものでその手数料は三%となつているけれども実際には無手数料のものであつた。工場割当等の纒つた数量の商品については仕入は現金でなく、入金は相当期間遅延して欠損のものもあり一般業者からは利益がないため忌避されていたものである。昭和二十四年には後半期より生産過剰となり購買力も減退して繊維相場が恐慌状態に陥つて一方、組合よりは極度の粗悪品や高値品を無理矢理に配給があり此の頃から全国的に業者は配給を拒否して受領しなかつた状態である。又年末が接近するにつれて換金処分のため公定価格以下の値引競争が甚しく実際には公定価格の二分の一乃至五分の一位で乱売されたものも相当にあつた。

以上のような状況で資金の運用上比較的多額な金利を支払つている原告は被告主張のような一八、五%の利益は到底得られなかつたのである。

(四)  国旗、国旗玉、国旗竿について。

本件について原告の長男木越十雄が北海道より来沢し、石川県木工挽物工業協同組合及び石川県国旗普及協力会より直接買付けたもので原告の販売仕入とは全然無関係のもので原告は唯その輸送を手伝つたにすぎない。

(五)  その他推定仕入について。

被告は原告の昭和二十四年期末棚卸の内、仕入先不明の商品ありと主張しているが、原告は統制品以外の商品は全然取扱つていない。原告は棚卸当時現存せるものを全部記載せるため品名数量等に帳簿と不一致を生じたかも知れないが合計については違算なきことを確信している。原告主張のような会計学上の推定と回転率による計算は自由経済の時代にあつては兎も角、統制の最高潮にあつた昭和二十四年当時に之を引用することは常識としてあり得べからざるところであり、原告としては被告主張の如き数字及び利益は全く不可解である。

(六)  経費について。

被告主張の数額は被告の詳細なる調査の結果であろうが之によれば原告の主張より尚多額の経費を発見し得べきものと考えられるが原告主張の半額以下に減額計上された理由は不可解である。

(七)  盗難品消耗品について。

盗難品消耗品は本来損失金であるが原告は経理関係に無能なるため記帳された分だけを計上して金二九、五〇〇円四六銭としたにすぎない。

(八)  家賃について。

之に要する経費は全然計上していない。又被告主張の賃借人表とめの家賃は昭和二十一年より約五ケ年余り全然入金がないので昭和二十四年当時としても一銭の収入もなかつたのである。唯昭和二十七年に至り漸く半額を受領したが之は同年度の収入となるべきである。

(九)  値上りについて。

配給品の公定価格の値上が公示されても在庫品については凡て差益金を徴収されており小売業者たる原告の利益とならない。

以上を総括して衣料品、油脂、石鹸等については相当以前より前金制又は現金引換制になつており此等の商品の仕入については多額の銀行借入金に対し金利を支払つておりそれらの利益を計上すれば殆んど無利益又は欠損となつたものであるから被告の決定額は失当であると述べた。

被告指定代理人は本案前の答弁として原告の請求を却下する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め原告の本訴請求の中、原告の昭和二十四年度所得額を金参万六千百八拾八円と確定することを求める部分は、裁判所に対し行政庁の権限に属する所得額の決定をなすことを求めるものであるが、裁判所には行政処分を行う権限がないから行政庁の行う行政処分と同一内容を有する裁判を求める請求は不適法として却下せらるべきである。

本案の答弁として主文同旨の判決を求め原告主張の事実中被告が原告に対し昭和二十五年二月二十八日附を以て原告の昭和二十四年度所得額を金拾八万円、之に対する所得税額を金五万五千弐百五拾円とする旨の決定をなし、原告が昭和二十五年三月三十日附を以て金沢国税局長に対し右決定に対する審査請求をなし、昭和二十六年五月三十一日附をもつて原告の所得額を金拾弐万弐千七百円と決定し右決定通知が同年六月三十日原告に送達せられたことはいづれも之を認めるもその余の原告主張事実は不知。

被告が原告の所得額を算定するに当つて原告の申告はその裏付をなす諸帳簿、諸記録が整備されておらず且つ存在する資料は極めて粗雑であり被告並びに協議団の調査に際して原告の態度は甚しく非協力的であり且つ原告の営業を概観するに昭和二十三年には十五万円の所得に対して納税していたが昭和二十四年は生産が逐次増大したことによる衣料品等商品の出廻りが好転し他面消費者の購買力も増大したため各商店共その所得は前年に比し増加し且つ衣料品は何れも前年より増加の所得申告をなしていたに拘わらず原告のみひとり過少申告をなし、且原告と北国銀行本店との取引を秘匿する等の手段をとり原告の所得を把握することは困難であつたので協議団の協議によりいわゆる資産負債増減法に基き所得を算出し且つ所得標準率による所得額の算出も試み、得られただけの資料により収支計算もなしその結果は略、近似した数字が得られよつて原告の所得額を十二万二千七百円と決定したのであるが、其後更に調査した結果によれば原告の所得額は二十四万六千二円十二銭となつたのである。

その計算の基礎は次の通りである。

(一)  総支出  一、二七九、三六九円六六銭

内訳

イ、商品仕入高 一、二六一、六四八円八八銭

ロ、経費       一七、七二〇円七八銭

(二)  総収入  一、五二五、三七一円七八銭

内訳

イ、商品売上高 一、四五五、三七六円七四銭

ロ、期末商品棚卸   三六、八六四円一九銭

ハ、雑収入      三三、一三〇円八五銭

(三)  総所得    二四六、〇〇二円一二銭

右計算の詳細を項目別に詳述すれば

(イ)  先づ原告の昭和二十四年中における商品仕入高の明細は

1、食用油

仕入先、石川油脂販売株式会社 三〇〇、〇一一円〇三銭

2、石鹸等

仕入先、金沢化粧品協同組合  一一三、〇三二円五四銭

3、衣料品

一、仕入先、金沢衣料品小売商業協同組合 三九六、二六四円〇五銭

二、仕入先、北陸足袋卸商組合       二〇、五九三円八五銭

三、仕入先、東海北陸縫糸株式会社石川支店 一六、四六三円二七銭

四、仕入先、株式会社室七商店       二二、四二一円七〇銭

五、仕入先、金沢呉服小売商組合      三二、六七四円〇八銭

六、仕入先、笹井商店            一、四七八円一三銭

七、仕入先、株式会社佃商店        二四、六九七円九五銭

4、鑵詰

仕入先、鑵詰登録業者共同取扱所      七二、八三三円九六銭

5、ろうそく

仕入先、板垣吉兵衛商店             七三〇円〇〇銭

6、国旗用玉

一、仕入先、金沢化粧品雑貨協同組合     三、二八九円五〇銭

一、仕入先、石川県木工挽物工業協同組合   八、二〇〇円〇〇銭

7、国旗

仕入先、石川県国旗普及協力会       五〇、二〇〇円〇〇銭

8、其他推定仕入          一九〇、七四〇円〇〇銭

被告の調査によれば尚次のような原告の主張せざる仕入先不明の仕入商品がある

絞り銘仙外衣料品等三十九品目       一五、八九五円〇〇銭

此の仕入品についての年間推定仕入高を会計学上の比率法により算出すれば

一九〇、七四〇円〇〇銭

となる。そこで原告の主張に基ずき原告の昭和二十四年中における回転率を算定すれば次の通りとなる。即ち、原告の主張する繊維類の棚卸資産は昭和二十五年一月一日(昭和二十四年期末に当る)現在において、         三六、八六四円一九銭

であるのに対し原告の主張する売上原価(仕入高)は、

株式会社室七商店             二二、四二一円七〇銭

金沢衣料品小売商業協同組合       三三三、八一〇円七〇銭

東海北陸縫糸株式会社石川支店       一三、〇二九円六二銭

金沢呉服小売商組合            三二、一七五円四八銭

北陸足袋卸商組合             二〇、一四八円五五銭

株式会社佃商店              二四、六九七円九五銭

計                   四四六、二八四円〇〇銭

であるから棚卸資産を分母として売上原価を分子として除して算出した商品の回転率は十二回強となる。故に前述の如く被告調査により仕入先の判明した以前の不明な仕入品は合計金一五、八九五円〇〇銭であるから之に前記回転率十二回を乗じた金一九〇、七四〇円〇〇銭が昭和二十四年中における其他の推定仕入高ということができる。

9、期首商品在高(原告主張金額)    八、〇一八円八二銭

以上商品仕入高合計         一、二六一、六四八円八八銭

(ロ)  経費の内訳

1、金沢呉服小売商組合配給手数料      九六五円二八銭

2、事業税及び同附加税一期分     一四、七五五円五〇銭

3、衣料品小売業者登録手数料      二、〇〇〇円〇〇銭

計                    一七、七二〇円七八銭

(ハ)  原告の昭和二十四年中における商品売上高の明細は

1、食用油

石川油脂販売株式会社よりの仕入額金   三〇〇、〇一一円〇三銭より

洗剤及び石鹸二口合計金           五、六五六円四〇銭

を控除すれば              二九四、三五四円六三銭

となり、之に対する平均差益率は一二%であるから

売上高は                三二九、六七七円一八銭

2、石鹸等

(一)  石川油脂販売株式会社よりの洗剤石けん二口の仕入合計 五、六五六円四〇銭

(二)  金沢化粧品協同組合よりの仕入額 一一三、〇三二円五四銭

右合計                 一一八、六八八円九四銭

に対する各銘柄の小売価額によつて計算すれば

売上高は                一二九、一七二円七六銭

3、衣料品

(一)  金沢衣料品小売商業協同組合よりの仕入額

A                    四八、四〇六円五一銭

B                   三二五、四八一円四一銭

C                    二二、三七六円一三銭

(二)  北陸足袋卸商組合よりの仕入額   二〇、五九三円八五銭

(三)  東海北陸縫糸株式会社石川支店よりの仕入額 一六、四六三円二七銭

(四)  株式会社室七商店よりの仕入額   二二、四二一円七〇銭

(五)  金沢呉服小売商組合よりの仕入額  三二、六七四円〇八銭

(六)  株式会社笹井商店よりの仕入額    一、四七八円一三銭

(七)  株式会社佃商店よりの仕入額    二四、六九七円九五銭

右衣料品仕入合計額           五一四、五九三円〇三銭

となるところ、これより原告の主張する期末商品棚卸高 三六、八六四円一九銭

の内、仕入先不明なもの          一五、八九五円〇〇銭

を除いた残品高              二〇、九六九円一九銭

を控除すれば              四九三、六二三円八四銭

となり之に対する平均販売差益率は一八、五%であるから

売上高は                五八四、九四四円二五銭

4、鑵詰

鑵詰登録業者共同取扱所よりの仕入額    七二、八三三円九六銭

に対する平均販売差益率は一〇%であるから売上高は 八〇、一一七円三五銭

5、ろうそく

板垣吉兵衛よりの仕入額七三〇円に対する平均販売差益率は一〇%であるから売上高は金八〇三円となる。

6、国旗用玉

(一)  金沢化粧品雑貨協同組合よりの仕入は一五三個、金三、二八九円五〇銭であるところ、仕入額と小売消費者価格との差額は一個について三円五〇銭であるから売上高は金三、八二五円〇〇銭である。

(二)  石川県木工挽物工業協同組合よりの仕入は四一〇個、金八、二〇〇円〇〇銭であるところ、仕入額と小売消費者価額との差額は一個について五円であるから売上高は一〇、二五〇円〇〇銭である。

7、国旗

(一)  石川県国旗普及協力会よりの仕入は四一〇枚、金四九、二〇〇円であるところ、仕入額一枚について一二〇円と小売消費者価格一九三円八〇銭との差額は七三円八〇銭であるから売上高は七九、四五八円〇〇銭である。

8、国旗用竿

石川県国旗普及協力会よりの仕入は四〇本、金一千円なるところ、仕入価格一本について二五円と小売消費者価格四〇円との差額は金一五円であるから売上高は一、六〇〇円〇〇銭である。

9、その他推定仕入

昭和二十四年中における推定仕入高は前述の通り一九〇、七四〇円であるところ、之は衣料品であるから之に対する平均販売差益率は一八、五%でありその売上高は金二二六、〇二六円九〇銭である。

10、期首商品在高

原告主張の期首商品在高金八、〇一八円八二銭は衣料品であるから之に対する平均販売差益率は一八、五%であり、その売上高は金九、五〇二円三〇銭である。

右商品売上高の合計額は金一、四五五、三七六円七四銭である。

(二)  雑収入の内訳

1、家賃収入金二七、一一一円二五銭の内訳は左表の通り。

借家人

一月より五月迄一ケ月の家賃

合計

六月より十二月迄一ケ月の家賃

合計

一ケ年家賃総計

窪柾

三〇〇円

一、五〇〇円

五〇〇円

三、五〇〇円

五、〇〇〇円

村瀬正太郎

六二五円

三、一二五円

一、〇〇〇円

七、〇〇〇円

一〇、一二五円

二五〇円

一、二五〇円

四〇〇円

二、八〇〇円

四、〇五〇円

飯田由次

三〇〇円

一、五〇〇円

五〇〇円

三、五〇〇円

五、〇〇〇円

表とめ

七五円

三七五円

一二〇円

八四〇円

一、二一五円

喜多勘次郎

一〇六円二五銭

五三一円二五銭

一七〇円

一、一九〇円

一、七二一円二五銭

八、二八一円二五銭

一八、八三〇円

二七、一一一円二五銭

2、株式配当金

石川油脂販売株式会社より受領した株式配当金三二円

3、石けん配給代行手数料

金沢化粧品雑貨協同組合より受領した家庭用石けん配給代行手数料一、六六六円六五銭

4、古自転車売却代金二、〇〇〇円

5、金沢衣料品小売商組合配当金二、三二〇円九五銭

右雑収入合計 三三、一三〇円八五銭

以上の計算により原告の昭和二十四年度所得額は金二四六、〇〇二円一二銭となり右所得額以下においてなした被告の処分には何等の違法は存しないと述べ、原告の反駁に対し更に次の通り述べた。

(一)  食用油脂について。

原告の販売領域は金沢市内の二流地でバターの配給辞退が多かつたのである。当時の小売商は配給辞退に困つて一箱程度の仕入をして之を売り尽した後次の仕入をなす実情であつた。

かかる商況であつたにも拘わらず原告は銀行より二十万円の手形借入をなし、而も一時的に大量のバターを仕入れているのである。商人として老練な原告が一割に満たない公定利益率で多額の金利を負担して仕入れることはあり得ない。尚当時は工業用原料としてバターは配給ルート外に取引されていたことは公然の事実で現実に取引可能であつたことは推測に難くないのである。当時の市中における通常の小売差益率は二五%程度であつたが原告の場合は銀行より借入れた資金の利息及び資金の回収並びに目切れ等を考慮して二分の一以下の一二%の差益率を相当と認めたものであり決して無理な率ではない。然るに原告の主張する食用油の三、四%及び人造バターの〇、八%の差益率は当時の商取引の実状と遊離する架空の差益率である。

(二)  石けんについて。

当時石けんの配給については形式上金沢化粧品協同組合の代行として各小売店は消費者に配給をなしていたが、商品を仕入れる場合は組合の配給単価と小売業者に還元さるべき手数料を含めた配給単価で仕入をなし消費者価格で販売していたのであつて小売店の販売利益は組合配給単価と消費者販売価格の差額及び取扱数量に応じて組合より還元される取扱手数料を併せたものであり前者は当然商品販売益であり後者は雑収入として計上すべきものである。勿論取引に伴う運賃等については商品原価又は営業の経費として計算するのが妥当である。

当時石けんについては商品が枯渇し且つ配給ルートのものは廉価で且つ品質良好であり需要旺盛にして原告の主張する公定価格より安く売らねばならぬ理由はなく、却つて配給辞退により一個でも余分のものがあれば消費者は価格を度外視して飛び付く状態にあつた。利益率は公定価格の差益についても一割程度あり被告主張の差益は決して不当のものではない。

(三)  衣料品について。

衣料品の利益率については昭和二十四年中においては屡々公定価格の改訂が行われ、又品目銘柄毎に小売利潤は区々であつたことは原告主張の通りであるが同年上半期においては各品目銘柄共需要旺盛で飛ぶように売れ価格は凡て度外視された実情であつた。又良質商品の生産が著しく制約されていたので消費者の好む品目は各統制会社、組合共引張りだことなり、商品は全国的にも強力な統制会社等に皺寄せされる実情であつたがため、これが獲得に商品価格は昂騰し公定価格の存在さえ疑われたことは原告の自認する通りである。従つて此の様相は小売業者、消費者間にも現われ多少の抱き合せ配給があつたにしても、それがそのまゝ消費者に転嫁されていたものであり、需給関係不均衡の結果は総て現金取引となり掛売り等のことは殆んど考えられず統制経済が商人に喜ばれていたのである。

下半期に至り織物消費税の徹底、生産量の漸増等によりいわゆる統制粗悪品の値下りは多少考えられるが、これは上半期の好況によつて填補され年間を通じて差益率一八、五%(組合手数料三%を含む)は実情に即したものである。

又原告のみに限らず資金を巧妙に運用し得る業者は低金利を以て商品回転を行い取引の絶対額を増加し得た時代であり金利の多少の負担はあつても獲得した利益に対しては問題にする程のものではなかつた。

(四)  国旗、国旗玉、国旗竿について。

国旗、国旗玉、国旗竿は原告に売渡されたものである。当時原告の長男木越十雄は富士産業株式会社の小樽出張員であり同人は給与所得者であるから原告の取引と認定するは当然なことである。此等の商品の差益率について考察するに、原告の帳簿にその利益が記録されていない限り石川県国旗普及協力会の査定決定書に基き算定することは当然のことであり、当時の需給状況と原告の木越十雄を通ずる販売先を考えるときは、必ずしも石川県内に販売されたとは限らず採算の有利な地方でそれが販売されたとすれば小売業者最高販売価格一九三円八〇銭と算定することは決して不当ではない。当時の公定価格は凡て最高価格をきめたものであるが実相は最低価格を定めている情況にあつたため公定価格による差益率は現実には最低利潤の保証であつた。

(五)  其他推定仕入について。

原告は統制品以外は絶対に取扱つていないと主張するけれども衣料品店であつて統制品外の商品を程度の差こそあれ、取扱はない店のないことは各業者の一致した見解であり、消費者も生活必需物資である衣料、食用油、石鹸等は価格を度外視して買入に狂奔した時代であつたから業者は好むと好まざるに拘わらず統制品外の商品を取扱わざるを得ない状況にあつた。又統制組合にしても原告の自認する通り商品獲得に狂奔して傘下組合員に便宜を図つていたことも当時の組合決算に相当の簿外取引を類推し得ることから見ても明らかである。これら簿外商品は総て小売商店の帳簿には簿外に計算されることは想像に難くない。まして原告の如く業界において多年の経験を有する商人が独り他の業者の例外であることを断ずる何物もない。原告においては期首在庫及び期間中仕入にも記帳がなく、期末棚卸商品として掲上してある商品が多数見受けられることは簿外仕入のあることを如実に示しているものである。

(六)  経費について。

被告は調査に当り原告の帳簿に記載のあるものについて計上したのであり、記帳以外の経費は不確実であるから推定計上はしていない。

(七)  盗難品と消耗品について。

原告は盗難品として二七、〇〇〇円を計上しているが、

申立の期首棚卸商品    八、〇一八円八二銭

期末棚卸商品      三六、八六四円一九銭

であるから平均棚卸高は 二二、四四一円五〇銭

となり従つて平均在庫品を上廻る盗難があつたことゝなり、数額からみて常軌を逸した盗難となり原告の申立は全く信を措き難い。又原告は盗難品の品目を明らかにしていない。盗難品と称する服地、金巾の仕入時と盗難時の間に三ケ月以上の期間があり、衣料品不足時代に配給品が棚ざらしのまゝ三ケ月以上も放置されることは当時の需給状況よりみてあり得ない。

(八)  家賃について。

原告は独立家屋の家賃として常識上考えられない少額の家賃を申し立てゝいるので借家人につき調査したところ、原告の申立とは合致せず原告の申立が真実でないことが判明したが一部の借家人は家主たる原告の感情を恐れて真実の申立をしなかつたものであると述べた。

(立証省略)

理由

よつて先づ職権を以て被告の当事者適格について考えてみるに、被告は昭和二十五年二月二十八日原告の昭和二十四年度所得額を金拾八万円、所得税額を金五万五千弐百五拾円と決定し、之に対し原告は同年三月三十日附で被告の上級官庁たる金沢国税局長に対し審査の請求をなし、同国税局長は昭和二十六年五月三十一日附を以て原告の同年度所得額を金拾弐万弐千七百円と決定したことは当事者間に争のないところである。そこで原告の訴旨とする所得額拾弐万弐千七百円の決定の取消を求める訴においては、原告は取消の目的たる行政処分をなした金沢国税局長を被告とすることも、もとより任意になし得るところではあるけれども、金沢国税局長が被告金沢税務署長のなした原告の所得額金拾八万円の決定を金拾弐万弐千七百円と変更して決定した場合には金拾弐万弐千七百円を超える分について被告金沢税務署長の決定は取消されるが、金拾弐万弐千七百円の限度において被告の原決定は尚有効に存続するのであるから(所得税法四十九条第六項第三号参照)この場合原決定の処分庁である被告に対し原決定中なお効力を存続する部分の取消を求めることもできるものと謂わなければならない。従つて被告に対し金拾弐万弐千七百円の所得額の取消を求めるのは適法である。

次に被告の本案前の抗弁につき按ずるに、原告が請求の趣旨第二項において原告の昭和二十四年度所得額を金参万六千百八拾八円と確定することを求める点につき、被告は斯かる請求は裁判所に対し行政庁の行うべき行政処分と同一内容を有する裁判を求めるものであつて裁判所には斯かる権限がないから不適法として却下すべきであると主張する。併し乍ら行政事件訴訟特例法第一条に所謂行政庁の違法な処分の変更に係る訴訟とは、新たな行政処分を求めるものではなく、違法な行政処分の一部を取消すことによつて、その処分の内容を変更することを求める訴訟を謂うものと解すべきところ、原告は本訴において被告が決定した原告の昭和二十四年度所得額金拾弐万弐千七百円につき之を減額して金参万六千百八拾八円と確定することを求めていることはその主張自体により明らかであり、之は被告の決定した原告の同年度所得額金拾弐万弐千七百円の一部を取消して金参万六千百八拾八円に変更することを求めているに外ならないのであつて、新たな行政処分をなすことを裁判所に求めているものではないと解するのを相当とするから被告の右本案前の抗弁は理由がない。

よつて進んで本案について按ずるに、先づ原告は昭和二十四年度における所得税の課税総所得額は金参万六千百八拾八円にすぎないから被告の決定額金拾弐万弐千七百円は不当であると主張するに対し被告は右決定における原告の所得額算出の基礎は協議団の協議により(一)いわゆる資産負債増減法に基く所得の算出方法(二)所得標準率による所得額の算出方法(三)蒐集した資料に基く収支計算の方法による所得算出方法の三種の方法により計算した結果概ね近似した数額が得られたので原告の所得額を金拾弐万弐千七百円と決定したのであるが、其後更に調査した結果によれば原告の所得額は金弐拾四万六千弐円拾弐銭となるべきことが判明し、被告の決定額は右所得額を遥に下廻るものであつて、むしろ低きにすぎるから何等取消さるべき違法はないと主張する。

よつて先づ原告の所得額を金拾弐万弐千七百円と算出した被告の決定の計算の基礎につき考察する。

証人松田積造(第二回)の証言及び之により成立を認め得る乙第十九号証乃至同第二十七号証を綜合すれば、金沢国税局長は原告の昭和二十四年度所得額の調査を協議団の協議に附したところ、原告は諸帳簿諸記録を整備しておらず確実な資料を得ることができなかつたので協議団は蒐得した資料に基き審査の結果

資産負債増減法によれば別紙第二記載の通り一一三、二四一円九二銭所得標準率によれば別紙第三記載の通り一二四、七四四円五〇銭収支計算によれば別紙第四記載の通り一二二、六九七円〇〇銭となり右三種の計算方法による所得算出の結果は略々近似した数額となり且つ原告の昭和二十三年度所得額は金十五万円であり昭和二十四年度の原告の同業者の所得高は前年より上昇の傾向にあるにも拘わらず特に原告にのみ所得の減少すべき特別の事情も認められなかつたのであるが同局長は前記計算に従つて得た所得額より勘案して原告の所得額を金拾弐万弐千七百円と決定したものであることが認められる。

右認定のように原告が自ら課税の基礎資料たる帳簿や記録を整備していない場合には税務官庁に於ては課税の前提たる所得額算定に当り前記計算法に従つて推計することも已むを得ないと謂えよう。併し乍ら前記証人松田積造の証言(第一、二回)によれば被告は具体的資料による再調査をなしたことが明らかであるからその結果について更に原告の取扱ふた商品別乃至原告の収支に関係ある事項別に検討して原告の所得額を勘案してみよう。

(一)  食用油脂及び石けんについて。

証人松田積造の証言(二回共)及び之により成立を認め得る乙第一、第二、第二十七号証を綜合すれば原告の昭和二十四年中に取扱つたバター食油石けんについては

(イ)  石川油脂販売株式会社よりの仕入額(乙第一号証記載分) 三〇〇、〇一一円〇三銭

(ロ)  右の内乙第一号証の石けん(洗剤を含む)の仕入分 五、六五六円四〇銭

(イ)より(ロ)を控除すればバター食油の仕入分  (ハ) 二九四、三五四円六三銭

(ハ)の内、後に認定する原告主張のバター溶解分(甲第二号証の二記載分)  (ニ)   二、五〇〇円四六銭

(ハ)より(ニ)を控除すれば  (ホ) 二九一、八五四円一七銭

(別紙第五商品仕入高)

右(ホ)に対する利益率一二%の利益額  (ヘ)  三五、〇二二円五〇銭

右(ホ)(ヘ)の合計額即ちバター食油の売上高 (A) 三二六、八七六円六七銭

(別紙第五売上高)

前記(ロ) 五、六五六円四〇銭

金沢化粧品協同組合より石けんの仕入高(乙第二号証記載) (ト) 一一三、〇三二円五四銭

右(ロ)及び(ト)の合計 (チ) 一一八、六八八円九四銭

(別紙第五商品仕入高)

右(チ)につき各銘柄の小売価格(その詳細は乙第二号証記載の通り)により売上高を計算すれば

(B) 一二九、一七二円七六銭

(別紙第五売上高)

であることが認められる。右食油バターの利益率一二%の認定にそわない証人加賀谷清訊問の結果はたやすく措信し難い。

(二)  衣料品について。

証人松田積造の証言(第一回)及び之により成立を認め得る乙第三乃至第十一号証によれば金沢衣料品小売商業協同組合よりの仕入額合計 三九六、二六四円〇五銭

(そのうち、原告の帳簿に記載なきもの    七〇、七八二円六四銭)

北陸足袋卸商組合よりの仕入額        二〇、五九三円八五銭

東海北陸縫糸株式会社よりの仕入額      一六、四六三円二七銭

株式会社室七商店よりの仕入額        二二、四二一円七〇銭

金沢呉服小売商組合よりの仕入額       三二、六七四円〇八銭

笹井商店よりの仕入額             一、四七八円一二銭

株式会社佃商店よりの仕入額         二四、六九七円九五銭

合計仕入額            (リ) 五一四、五九三円〇二銭

(リ)の内、期末商品棚卸高    (ヌ)  三六、八六四円一九銭

(ヌ)の内仕入先不明なもの    (ル)  一五、八九五円〇〇銭

(ヌ)より(ル)を除いた残高(仕入先の判明せる分の棚卸高) (オ)  二〇、九六九円一九銭

右(リ)より(オ)を控除すれば  (ワ) 四九三、六二三円八四銭

(別紙第五商品仕入高)

であることが認められる。衣料品の利益率につき原告は三、四%であると主張するけれども、之を認めるに足る証拠はなく、却つて証人松田積造(第一回)及び之により成立を認め得る乙第十七号証並びに証人田守太兵衛訊問の結果を綜合すればその利益率は一八、五%であることが認められる。従つてその売上高は

(C) 五八四、九四四円二五銭

(別紙第五売上高)

(三)  鑵詰、ろうそくについて。

証人松田積造の証言(第一回)及び之により成立を認め得る乙第十一号証同第十七号証によれば

鑵詰登録業者共同取扱所よりの仕入額     七二、八三三円九六銭

板垣吉兵衛商店よりろうそく仕入額         七三〇円〇〇銭

合計仕入額            (カ)  七三、五六三円九六銭

(別紙第五商品仕入高)

此の利益率は一割であることが認められる。

従つて、その利益額は合計     (ヨ)   七、三五六円三九銭

売上高((カ)と(ヨ)の合計)  (D)  八〇、九二〇円三五銭

(別紙第五売上高)

となること計数上明らかである。証人板垣吉兵衛の証言及び之により成立を認め得る甲第七号証の三の記載は証人木越多賀の証言に照して措信し難い。

(四)  国旗、国旗玉、国旗竿について。

証人松田積造の証言(第一回)及び之により成立を認め得る乙第十二乃至第十六号証を綜合すれば

金沢化粧品雑貨協同組合より国旗玉一五三個の仕入額 (タ)   三、二八九円五〇銭

此の利益金                    (レ)     五三五円五〇銭

売上高((タ)と(レ)の合計)          (ソ)   三、八二五円〇〇銭

石川県木工挽物工業協同組合より国旗玉四一〇個の仕入額 (ツ)   八、二〇〇円〇〇銭

此の利益金(一個当り利益金五円) (ネ)   二、〇五〇円〇〇銭

売上高((ツ)と(ネ)の合計) (ナ)  一〇、二五〇円〇〇銭

石川県国旗普及協力会より国旗四一〇枚の仕入額 (ラ)  四九、二〇〇円〇〇銭

此の利益金(一枚の利益七三円八〇銭) (ム)  三〇、二五八円〇〇銭

売上高((ラ)と(ム)の合計) (ウ)  七九、四五八円〇〇銭

石川県国旗普及協力会より国旗竿四〇本の仕入額 (ヰ)   一、〇〇〇円〇〇銭

此の利益金(一本の利益一五円) (ノ)     六〇〇円〇〇銭

売上高((ヰ)と(ノ)の合計) (ヲ)   一、六〇〇円〇〇銭

仕入高((タ)(ツ)(ラ)(ヰ))の合計 (ク)  六一、六八九円五〇銭

(別紙第五商品仕入高)

売上高((ソ)(ナ)(ウ)(オ))の合計 (E)  九五、一三三円〇〇銭

(別紙第五売上高)

であることが認められる。原告は右取引は原告の長男木越十雄の取引であり原告の取引とみるべきものではないと主張するのであるけれども此の点に関する証人木越十雄訊問の結果及び之により成立を認め得る甲第七号証の四は十分に措信し難く右認定を覆すに足らない。

(五)  その他推定仕入売上について。

衣料品に関する仕入先不明な商品の仕入高は前段認定の如く

前記 (ル)  一五、八九五円〇〇銭であり

期末の商品棚卸高が (ヌ)  三六、八六四円一九銭

なることは原告が別紙第一において主張するところである。

又原告の主張するところによれば原告の衣料品仕入高は別紙第一にある如く

株式会社室七商店(旧北陸布帛株式会社) 二二、四二一円七〇銭

金沢衣料品小売商業協同組合      三三三、八一〇円七〇銭

東海北陸縫糸株式会社石川支店      一三、〇二九円六二銭

金沢呉服小売商組合           三二、一七五円四八銭

北陸足袋卸商組合            二〇、一四八円五五銭

株式会社佃商店(旧白山布帛株式会社)  二四、六九七円九五銭

計              (ヤ) 四四六、二八四円〇〇銭

であるから、会計学上の比率法に従い(ヌ)を以て(ヤ)を除すれば商品の年間回転率は十二回強となり前記(ル)仕入先不明な商品の仕入高に十二回を乗じて得た(マ)一九〇、七四〇円〇〇銭(別紙第五号商品仕入高)が仕入先不明の衣料品の年間推定仕入高となる。之に衣料品の販売利益率一八、五%を乗じた(ケ)三五、二八六円九〇銭が之に対する利益であり売上高((マ)と(ケ)の合計)は別紙第五(F)二二六、〇二六円九〇銭である。

原告は昭和二十四年度は統制経済の最高潮の時代であり統制品以外の繊維品は取扱つていないからかゝる会計学上の推定をなすべきではないと主張するけれども、原告備付の帳簿の整備並びに、その記載が甚しく不正確であり之を以て原告の所得計算の基礎たるべき資料となすを得ざることは証人松田積造(二回共)の証言及び乙第三号証乃至第十一号証の記載と原告主張の別紙第一の計算書とを対比すれば明白であり、且つ原告は被告よりその仕入先不明なものとして指摘せられても尚且之を明確ならしむべく積極的に主張立証をなさず、又昭和二十四年当時には統制品以外の衣料品が多数横行していたことは公知の事実であるから原告がかかる推定を受けるのは蓋しその甘受すべきところと謂わねばならぬ。

(六)  期首商品在高について。

成立に争なき甲第四号証の九によれば原告の期首商品棚卸高は、 (フ)  八、〇一八円八二銭

であり右は衣料品であることが認められるから衣料品の販売利益率一八、五%を乗じその利益額

(コ)   一、四八二円四八銭

その売上高((フ)と(コ)の合計) (G)   九、五〇二円三〇銭

(別紙第五売上高)

(七)  家賃について。

証人村瀬正太郎、同飯田由次の各証言に成立に争なき甲第三号証の一(家賃簿)の記載を綜合すれば原告は昭和二十四年中において次表の通り家賃を受領していることが認められる。

賃借人氏名

一月より五月迄一ケ月の家賃

一月より五月迄家賃合計

六月より十二月迄一ケ月の家賃

六月より十二月迄家賃合計

一ケ年家賃総計

窪柾

七五円

三七五円

一二〇円

八四〇円

一、二一五円

村瀬正太郎

一二五円

六二五円

二〇〇円

一、四〇〇円

二、〇二五円

七五円

三七五円

一二〇円

八四〇円

一、二一五円

飯田由次

七五円

三七五円

一二〇円

八四〇円

一、二一五円

喜多勘次郎

一〇六円二五銭

五三一円二五銭

一七〇円

一、一九〇円

一、七二一円二五銭

合計家賃額

(エ)

七、三九一円二五銭

又賃借人表とめの家賃は一月より五月迄各七五円、六月より十二月迄各一二〇円合計金

(テ)      一、二一五円

が未収であることは当事者間に争がないところ、税法上の所得は発生主義を採用すべきものであるから(所得税法第十条第一項参照)右未収家賃も昭和二十四年における原告の所得に算入すべく結局原告の家賃収入合計は右(エ)と(テ)の合計金(別紙第五の(H))、八、六〇六円二五銭である。右認定額を超過する被告の主張額は之を採用できない。

(八)  其他雑収入について。

成立に争のない甲第三号証の三によれば石川油脂販売株式会社より原告に対し昭和二十四年中に配当金

(ア)       三二円〇〇銭

を交付したことが認められる。

成立に争のない甲第三号証の二によれば金沢化粧品雑貨協同組合より原告に対し家庭用石鹸配給代行手数料として(サ)金一、六六六円六五銭を交付したことが認められ

証人松田積造訊問の結果(第一回)により成立を認められる乙第十八号証によれば金沢衣料品小売商組合より原告に対し同組合の昭和二十四年三月決算期の配当金として (キ)金  二、三二〇円九五銭

を交付したことが認められ

成立に争のない甲第三号証の六によれば昭和二十四年三月十日原告より訴外平山正祿に対し古自転車一台を売却して(ユ)金二〇〇〇円〇〇銭を受領したことが認められる。従つて右雑収入((ア)(サ)(キ)(ユ))合計額は別紙第五の (I) 六、〇一九円六〇銭

収入の合計額は別紙第五の (J) 一、五〇四、〇六六円二七銭

となる。

(九)  経費について。

原告の昭和二十四年度における経費として次のものが認められる。証人高村武雄の証言及び之により成立を認め得る甲第四号証の二により金沢衣料品小売商業協同組合に対し配給手数料として、

一般品手数料 (メ) 九、一四〇円二九銭

(別紙第五支出の部2)

共販品手数料 (ミ) 二、〇〇四円一三銭

(右同)

を納付し

証人滝本千里の証言及び之により成立を認め得る甲第七号証の六及び甲第五号証の一を綜合すれば原告は訴外牧弥生より昭和二十四年七月二十五日金六万円を借り受け同年八月より同年十二月迄毎月金六百円づつ合計金 (シ) 三、〇〇〇円〇〇銭

(別紙第五支出の部3)

の利息を支払い

証人中田喜代重の証言により成立を認め得る甲第五号証の二によれば原告は昭和二十四年に営業用文房具費として (ヱ) 金九三円七八銭

(別紙第五支出の部4)

成立に争なき甲第五号証の三によれば昭和二十四年度事業税として、

(ヒ)金 一四、七五五円五〇銭

(別紙第五支出の部5)

成立に争なき甲第四号証の四により原告は金沢呉服小売商組合に手数料として、

(モ)金 九六五円二六銭

(別紙第五支出の部6)

成立に争なき甲第五号証の五により石川県に対し衣料品小売業者登録更新により登録票交付手数料として

(セ)金 二、〇〇〇円〇〇銭

(別紙第五支出の部7)

証人高村武雄の証言により成立を認め得る甲第五号証の六により原告より金沢衣料品小売商業協同組合に対し発券手数料として (ス)金 一、二〇〇円〇〇銭

(別紙第五支出の部8)

分賦金として (ン)金 一、九〇〇円〇〇銭

(別紙第五支出の部9)

成立に争なき甲第四号証の七により石川油脂販売株式会社に対し荷造費及び木箱代として

(い)金 一、二二九円七〇銭

(別紙第五支出の部10)

証人片山美香子訊問の結果及び之により成立を認め得る甲第二号証の二によりバターの暑気による溶解損失分 (ろ)金 二、五〇〇円四六銭

(別紙第五支出の部11)

が夫々認められる。

右認定の経費全部を合計すれば (K) 一、二七六、九六八円三五銭

(別紙第五支出の部)

尚原告は盗難品として 金 二七、〇〇〇円〇〇銭

を経費として計上しているけれどもその主張によれば期首棚卸高と期末棚卸高との平均棚卸高

二二、四四一円五〇銭

を上廻る盗難があつたこととなり主張自体措信し難く証人木越多賀訊問の結果も之を措信し難いから盗難品二万七千円は之を認定することができない。

以上各品目別乃至事項別に夫々認定したのであるが之を総収入金額と、必要経費とに区分して別紙第五の通り集計し次の通り認定する。

総収入金額 (J) 一、五〇四、〇六六円二七銭(別紙第五)

必要経費額 (K) 一、二七六、九六八円三五銭(右同)

所得税法第九条第一項第四号の規定によれば原告のように商業を営む者の所得算定方法は総収入金額より必要経費を控除して算定することとなるから前記総収入金額より必要経費を控除し

(L)   二二七、〇九七円九二銭(別紙第五)

をもつて原告の昭和二十四年度所得額と認定することができる。

これと前記計算法による原告の所得額とを対比すると原告の所得額は遥に大となるのであるが、被告がなした所得税審査決定はその低きに従つて原告の所得額を金拾弐万弐千七百円と定めたのであつて、むしろ原告の利益に従つたものでまことに相当であると謂わねばならない。

よつて被告の決定額を高きに失すると主張し、これが変更を求める原告の本訴請求は失当であるから之を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 観田七郎 辻三雄 三井喜彦)

(別表省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例